新潟でのひとコマ

 新潟市のシンポジウムも終わり、タクシーを待っているときの事。
 一人の若者が歩いてきた。彼は、僕に気がついたらしく「あっ!」と小さな声をあげて、こちらに近づいてきて話しかけてきた。

「僕も精神に障がいがあるんですが、今日の話を聞いて、元気が出ました」と。
 今日の話は皆さんにどれだけ伝えられただろう? と思いながらの帰りだっただけに、彼の一言にとっても嬉しくなった。
 彼は更に続けた…。

「僕も働いていたんですが、会社が倒産してしまいました。それからずっと、僕の履歴書はそこでとまってしまっています」
「ずっと落ち込んでいたんです。でも、明日から、また、頑張ろう、って気持ちになりました。」

 もっと話をしたい、と思った矢先に、呼んでいたタクシーが来て、ドアが開いた。

 僕は慌てて名刺を出して、「何かあったら、電話でもメールでもして下さい。ホームページもまた見て下さい」と。

「パソコンもメールも僕はできませんけれどありがとうございます。今、クリニックのデイケアに通っています」
「それだったら、デイケアでワーカーさんからでも良いですから…」

 彼は待たせてあるタクシーが気になるようで、「わかりました」と言って左手を差し出した。

「僕も浜松で明日から、また頑張ります。ちょっとずつですね。お互い頑張りましょ!」と手を握り返した。

 結局、彼の名前も聞かずじまいで、僕は会場を後にした。
 ほんの短い時間の出来事…。
 遠慮しがちな彼の左手の感触…。
 僕の方こそ、元気をもらうことができた。

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